【NPO法人かものはしプロジェクトとは】
ビジネス性の高いアプローチでカンボジアでの児童買春問題の解決に取り組んでいるNPO法人。日本企業のWEB制作受注(IT事業)や、サポーターからのファンドレイジング(サポーター事業)で得た収入を資金源に、カンボジアにおいてコミュニティファクトリー事業(農村で職業訓練と就労機会を与える)とPCスクール事業(孤児院に保護された子供を対象にパソコンの基礎スキルを教えるPCスクールを運営)の二つの事業を展開している。
団体HP http://www.kamonohashi-project.net/activity/itbusiness/
【本木さんのお話】
① かものはしプロジェクトのミッション
「児童買春の背景にある貧困問題。」
深刻な現状とその背景
カンボジアの児童買春については、テレビ番組に取り上げられることも多いので、耳にしたことがある方が多いかもしれません。買春をしている少女は、8歳くらいからおり、15~17歳くらいの子が最も多くなっています。児童買春には様々な背景がありますが、一番の根本にあるのは貧困によって売春業に手を出さざるをえなくなっている社会構造です。児童買春の撲滅には、子供が買春に手を染めないで済むような社会作り、つまり貧困層の支援が不可欠なのです。
かものはしプロジェクトのミッション
かものはしプロジェクトはカンボジアで、職業訓練と就労機会を貧困層に対して提供し、貧困層の支援ひいては児童買春の撲滅を目指しています。
② コミュニティファクトリー事業
「自立した組織作り、意識作りが最大の課題。」
自立した施設の実現を目指して
コミュニティファクトリー事業は、農村の住民に、職業訓練と就労機会を提供するコミュニティファクトリーを設立・運営するプロジェクトです。
かものはしがコミュニティファクトリーを立ち上げる前から、地元NGO等による職業訓練施設は農村にいくつか存在していました。しかしながら、このような既存施設の多くは資金不足から機能不全に陥り、海外の資金提供者からの支援待ち、のようなものが多かったのです。かものはしプロジェクトのコミュニティファクトリーでは、自分たちで製造した製品の収益でファクトリーを運営できるような、経済的に自立した施設の実現を目標としています。
活動内容
農村で生産されるい草を用いてカバン等の手工芸品を作り、それを国内のマーケットで販売しています。カンボジアは貧しい国で失業率も高いですが、中国・ベトナム・タイから輸入される豚や野菜、観光客向けのお土産品などを扱うマーケットが存在しています。今後国内製品・商品のクオリティを向上させていけば、輸入代替型の産業振興の余地も十分にあると考えています。
事業実施の課題
参加者一人一人の意識作りが最大の課題です。タイ・ベトナム・中国等の周辺国と比べてもカンボジアは内戦の歴史が長く国としての発展が遅れています。しかし、コミュニティファクトリーを進めていく中で、参加者の中に、努力する姿勢や自分たちで積極的に問題を解決していこうとする姿勢が生まれてきました。引き続き難しい課題ではありますが、粘り強く取り組んでいきたいと思っています。
今後に向けて
あくまでも事業の目的は児童買春の撲滅なので、コミュニティファクトリーという形にこだわらず様々な支援を今後とも検討していきたいと思っています。たとえば、収入面だけでなく、知識・教養に対する支援や、他の仕事の斡旋などを包括的に行うことや、警察に対する買春摘発支援など、方法に拘らず良いソリューションがあれば取り入れていく方針です。
③ 本木さんのソーシャルベンチャー論
「腹で決めて、足を動かし、頭で考える-それが社会起業家に求められる資質。」
ソーシャルベンチャーの強み
社会的意義の高い事業を手掛けることで、共感をベースにした支援を受けることができる、というところでしょうか。
かものはしプロジェクトでは、企業経営者の方々からのアドバイスを受ける会を定期的に開催していて、毎回多くの経営者の方々がお忙しい中参画して下さっています。
ソーシャルベンチャーの弱み
ソーシャルベンチャーを志すような人はこだわりや信念が強いことが多いので、意見が対立すると妥協点が見つけにくい気はしますね。
ソーシャルベンチャーに飛び込んだきっかけ・今思うこと
私は、学生時代就職活動をして内定もいただいていたんですが、結局そこを断ってこの世界に飛び込みました。当時決断に踏み切ったのは、一言でいえば、「難しそうで面白そう」だったから。児童買春は簡単に解決できる問題ではないし、難しい。けれど、どうやったらその問題を解決できるか考えるのは、難しいからこそ面白い。何より、自分の仕事によって、誰かがハッピーになる、ということが明確にイメージできることが、やりがいにつながってます。
かものはし円満の秘訣
これまで、かものはしプロジェクトが続いたのは、共同代表制を取っていることが大きいです。現在かものはしプロジェクトには三人の代表がいて、それぞれに役割分担がしています。一人一人が組織の代表という自覚を持った上で役割分担ができていることが、組織によい影響を与えていると思いますね。また、代表といっても若いので、三人で互いに精神的なブレを支えあえる、という点でも、共同代表制にしてよかったと思っています。
社会起業家に必要な資質
「腹で決めて、足を動かし、頭で考える」こと。誰を幸せにして自分が幸せになるのか、常に考え、考えながら行動し、そのフィードバックを受け取りながら次に進む、行動だけでも考えているだけでもダメ。行動と思考と、二つを同時にするには、「腹で決める」ことが大事です。僕は、20代のうちは、自分なりの「腹の決め方」を鍛える時期だと思っています。
もう一つは、楽観的に物事をとらえられること、精神的にタフであること。事業がうまくいかない時、どうしてうまくいかないのか、真剣に考えながら、同時に、常に楽観的に状況を捉えられるような、そういう視点が重要だと思います。
【本木さん meets コンパスポイント】
~ガチンコの質疑応答~
今から、もう一度大学生の時点に戻って、進路を選択するとしたら、どういう選択をされますか?
難しいですね(笑)ただ一つ言えるのは、今の進路をとったことに後悔はしていないということです。今の仕事をしていると大企業の社長とお会いする機会も多くあるし、ソーシャルベンチャーに飛び込んだことで早く成長できた部分も多いと思います。ただ、民間で働くという選択もあったかなとは思いますね。
3人の共同代表制をとっているがゆえに、決定が難航する、という場面はないのでしょうか?
Ø 3人がそれぞれ一つの決定事項について腹を決めるというのは確かに難しいことだと思います。ただ僕個人は割と自然体で腹を決めることができるみたいです。最終的には村田(注:共同代表の村田早耶香氏)の意見が方向性を決めることが多いかもしれないですね。
かものはしプロジェクトの 設立当初、必要となった資金の調達はどのように行ったのでしょうか。大学生3名で立ち上げた団体が、どのように資金を調達したのか、関心があります。
ソーシャルベンチャーを設立していた知り合いがおり、資金調達の方法についてはそういうところからノウハウを教えてもらったり、コンペに出展して入選、得た賞金を資金に回したりしました。そこまで多額の初期費用が必要な事業内容ではなかったので、それで事足りましたね。
IT事業開始時、専門知識を持った人材はどのように調達したのでしょうか?
IT業界で働いている人などに会って話をしていく中で、我々の理念に共感してくれる人に参画してもらう、といった形で専門的な知識を持った人材の支援を得ることができました。活動の理念に共感して支援をしてもらえる、というのは、やはりソーシャルビジネスの強みですね。
事業対象地として、何故カンボジアという国を選んだのでしょうか?また、コミュニティファクトリーがかものはしプロジェクトの支援なしでも自立して運営していけるようになるためには、何が必要と考えていますか?
カンボジアを選んだのは、東南アジア諸国の児童買春の状況を比べた時、最も酷いレベルの環境にあり、かつ、政治体制等を勘案しても事業活動を行いやすい環境であったためです。コミュニティファクトリーについては、ファクトリーの経営を自分で行うことができる能力を持った人材を、自らの資金で雇用できるようなレベルに到達すれば、組織として自立してくると思いますね。
日本のフェアトレード市場はどのような市場だと思いますか?
日本のフェアトレード市場は今後拡大してくると思いますよ。特に最近は、途上国の商品、というブランドだけでなく、品質面でも日本の製品と競争力のある商品を提供しようとしているフェアトレード団体が増えてきています。こういうビジネス的な発想が、フェアトレード市場全体の拡大・発展につながるものと期待しています。
かものはしプロジェクトの活動の課題について、本木さんが個人的に考えることを教えてください。
企画から事業の実施までに、やや時間が掛かり過ぎていると思いますね。なかなか迅速な事業化ができていない。コミュニティファクトリー事業は現地のNGOとの協調が不可欠なのですが、そのNGOとの関係維持も課題です。事業を実施する以上、その事業が黒字となり、成果を出せなければ、意味がないと個人的には考えています。
【参加者のディスカッション結果】
議題 「ソーシャルベンチャーを若手社会人がどうサポートしていけるのか!?」
アドバイザリーコミュニティの設置案
学生、様々な業種の社会人から構成されるアドバイザリーコミュニティのようなものを作る。但しコミットメントの小さい団体からの提言は言い放しの意見になる可能性があるし、実際にかものはしプロジェクトにとって有用な提案となるかどうかも不明なので、コミュニティ自身で、団体からの課題を把握し、それに対する解決策を具体的な形で提示できるようにするところまで行う実効力を持たせられないだろうか。特定の団体のアドバイザリーコミュニティではなく、様々なソーシャルベンチャーの課題解決のためのアドバイザリーコミュニティ、というような形にするのも面白いかもしれない。
民間企業との協力強化案
民間企業とソーシャルベンチャーが相互に扶助する体制を構築すべきではないか。人材交流と情報の交換を活発に行えるような体制を構築できないだろうか。特に、環境保全などの分野などでは、こうした交流が実現しうる可能性は大きいのではないか。
【本木さんから、参加者へのメッセージ】
是非とも、これからもソーシャルベンチャーや、それらが取り組んでいる社会問題について、継続的に関心を持つようにしてください。今、ソーシャルベンチャーが注目されていますが、それらが取り組んでいる社会問題は普遍的なものであり、一過性のブームで関心を持たなくなってしまうような性質のものではないはずです。今日の議論で出たようなアイデアや、各自の問題意識をこれから深めて、将来何らかの形でソーシャルベンチャーに関わってくれる人材が出てきてくれれば、うれしいですね。
【参加者からの声】
・ ただ聞くだけじゃない会だったのがよかったです。短い時間でしたが、ディスカッションしたことで
それぞれの参加者の考えからも刺激を受けることができました。
・ あまり出会う機会のない「若手社会人で問題意識の高い方々」と出会えてよかったです。
・ コンパスポイントの趣旨と、今回のテーマであるソーシャルビジネスが合致していました。
何か学びたいという意識が運営側・参加者側にもあって心地良かった。
・ 夢や志は仲間がいてこそ達成できるものだと信じていますので、久々に仲間が広がりそうな雰囲気
にわくわくしています。
・ 本木さんの頭の回転、切り口は圧巻でした。もっと上を目指そう!そう思えた会でした。
・ 本木さんの「20代は自分の"決め方"を考え、鍛える時間だ」との言葉にすごく刺激を受けました。
最近就活で視点が目の先にあったので、それを上に上げていただいたと思います。
・ やはり、クレバーな戦略的思考も大事なのだと再確認できました。
最近は「想い」に寄り過ぎていた感があったので。
【おわりに】
第一回コンパスポイント、いかがでしたでしょうか?
本木さんは、活躍するフィールドこそ「NPO」「カンボジアの児童買春問題」という社会性の高い分野であるものの、お話のそこかしこに"強いビジネスマインド"が溢れており、そのバランス感覚に脱帽でした。また、同世代の仲間と普段絶対話さないようなテーマをガチンコでディスカッションすることも、新たな気付きを与えてくれるものでした。
本木さん、そして参加してくれた方々、どうもありがとうございました。