CompassPoint (コンパスポイント) ~若手社会人の情熱の魔法瓶~

What we do 活動内容

CP23

2010年7月31日(土)青山スタジオプレイスにて、Teach for Japan準備会の松田さんを迎えて第23回コンパスポイントを開催しました。「Passion(情熱)で教育は変わる」という信念をもっていらっしゃるだけあって、流石という感じの大きな声と熱い想いが一杯詰まったお話をして下さいました!

1. 松田さんのお話
2. Teach for Japan準備会が目指すもの
3. 質疑応答
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中学校の時に先生と一緒にいじめを乗り越えた経験から教師になりたいと思いまいた

僕は日本大学文理学部体育学科を卒業しました。教員を目指した理由は、中学生の時に身体的ないじめを受けていたことです。毎日毎日、休み時間に、柔道部の同級生が僕の教室までやってきて、柔道技をかけてくるというとても苦しい経験をしました。学校に行きたくない気持ちで一杯だったけど、数少ない友達に支えられて何とか学校に通っていました。

そんなある日、学校の先生から「松田、最近調子はどうだ? イジメってなんでおこるんだろうね?たぶん99%はいじめる子が悪いと思うが、いじめられる子も1%ぐらいは原因があると思わないか?。一緒にその原因は何か、どうすれば松田がいじめられなくなるのかを考えてみよう」と言われました。そこから先生は自分と一緒に一生懸命考えました。僕が標的にされるのは、身体的に他の人より小さいからではないか?小さいのが問題であるならば、身長を伸ばすために牛乳を沢山飲んでみないと!カルシウムだけだと駄目だからマグネシウムも採るためにココアも飲もう!最も身長が伸びやすい時間に寝ておくために夜9時に寝よう!というように、先生と一緒に色々と解決先を考えてそれを実践していきました。

これらの結果、身長が3年間で毎年10センチずつぐらい伸びていきました。大きくなるとともにいじめられなくもなり、そして筋力トレーニングなども同時に行っていたため、体がどんどん大きくなって行きました。このように小さな成功体験を積み重ねた結果、自分がどんどん変わっていくのを感じました。体育もどんどん好きになっていったし、高校では陸上部の部長も務めるほどになりました。

このように僕は中学校の先生のおかげで自分を変えることができたのです。そして、自分も誰かが変わる瞬間をサポートしてあげたい、ひとりでも多くの体育嫌いを体育好きにさせたい!と感じて体育教師を目指すようになりました。



教師になる夢をかなえたいと思って入った大学で、教職課程に疑問を感じました

自分は勉強嫌いで成績が本当に悪く、周りの人からは「大学受験は絶対に失敗する」と言われるほどでした。でも僕は教師になりたかったので、高校3年の夏に陸上部を引退した後、それこそ死ぬ気で一生懸命勉強に励みました。その結果、有名私学の商学部と日本大学の体育学科の2つから合格を勝ち取ることができました。

有名私学は力試しに受けただけだったのに、教師から「有名大学の方に進学するんだろ」と決めつけるように言われました。自分は体育教師を目指していると公言しているにも関わらず、そんなアドバイスをする先生がいることが許せなくて、なおさら教師になるという想いを強くしました。

こうして進学した大学でしたが、現場をほとんど経験しない教職課程に疑問を感じた結果、実践力をつけようと思って中学生向けの学習教室を開きました。そこでは勉強を教えるのではなく、高校受験に向けて皆のモチベーションを高めるために、皆と一緒に「なぜ勉強しないといけないのか?」「将来何をしたいのか?」を考えることをしていました。そうすると、子どもたちが自分のやりたいことをノートに書き留めるなど、どんどん変わっていきました。自分が何をやりたいのか?夢は何なのか?その夢や目標を達成するためにどうすればよいのか?大学進学?高校進学?どういう科目が必要なのか?という風に夢・目標をブレークダウンして考えれるようになりました。

このような指導を意識した結果、全員が自分の行きたい高校に合格することができたのです。こういう経験を積んで、やはり現場を経験することの大切さを肌で感じましたし、現場での経験をほとんど積むことができないまま教師になってしまう今の教職課程に非常に問題意識を感じるようになりました。



教師を2年間経験したが、自分で学校を建てようとHarvard大学に留学しました

大学卒業後は母校の中学校で体育教師になりました。そこで、普通の「授業」をしていては子どもの学習意欲を引き出す事ができないということに気づきました。また、気づきと同じように英語教育に対する疑問も感じるようになりました。英語教育に多くの時間とお金をかけているにも関わらず、ほとんどの日本人が英語を話せない今の英語教育に疑問を抱いたことから、英語で体育を教える授業を始めました。自分で言うのもなんですが、英語に対する苦手意識がなくなったと、生徒からの評判はすこぶる良かったです。

しかし、ある先輩教員からは「おまえは体育だけ教えていればいいんだ」と怒られてしまいました。他の先生に理由を聞いてみると、英語で体育を習う授業が面白くなると、相対的に英語の授業が面白くなくなってしまったからという理由でした。僕が工夫して授業をしているから、自分も工夫してより良い授業をやろう、という発想ではなく、出る杭を打つような先生の考え方がまかり通っているという現実を身をもって感じ、こういう組織にいてはいまいくら教育に情熱を持っていたとしても、そのうち情熱の火が消えてしまうのではないか、という危機意識を持つようになりました。

そして、自分は情熱を絶やしたくないから、自分で学校を作るしかない、と思うようになりました。では、学校を作るためにはどうすれば良いのか、と考えたところ、学校はある意味企業のようなものなのですが、実際にマネジメントができる人はほとんどいない、と思い当りました。だからこそ非効率的な学校が一杯あって、教師は大半の時間を子どもと接すること以外に費やさねばならなくなるのだろう、と思いました。

このような学校の仕組を変えるためには、自分はリーダーシップやマネジメント能力を身につける必要があると感じました。そこで、最先端の教育論を受けることができ、なおかつ、卒業後の進路を考えて、Harvard大学教育大学院に進学することにしました。



Harvard大学卒業後、一旦は就職したものの、Teach for Japan準備会を立ち上げました

Harvard大学を卒業して、ビジネスの経験を積もうと思って一旦大企業に就職しましたが、この4月に会社を辞めてNPO法人Teach for Japan準備会を立ち上げました。なぜ今辞めたかというと、これだけ思い切ったことができるのは、20代後半という年齢と、家庭がない今だけではないか、と思ったからです。そして、何よりも流れがきたと思ったからです。

帰国後、しばらく働きながら準備を進めていた時に、自分のやりたいことを周囲に伝えると、皆支援する姿勢を示してくれるものの、「じゃあ、いつ本気ではじめるの?」と聞かれるようになりました。それじゃあと思って、会社を辞めてNPOを立ち上げてみたら、本気になった途端に多くの人が自分に力を貸してくれるようになりました。

将来的に自分で何かをしたいと思っている人が多く集まっていると聞いているので、そんな皆さんにアドバイスをさせて頂くと、「今だ」と確信をもった瞬間に飛び出た方がいいと思います。もちろん上手くいく事ばかりではないので悩んでいるのなら辞めた方がいいと思います。実際に本気になって情熱をもって取り組んでみると、色んなチャンスが巡ってくると思いますので、是非皆さんもやってみて下さい。



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Teach for Americaの概要

ここで、Teach for Americaの概要を簡単に説明します。Teach for Americaは20年前に一人の女性が始めた取り組みで、貧困地区にいて教育に恵まれない子どもたちに、全米で最も優秀で最も情熱を持っている学生の授業を受けてもらうことで、教育水準をあげていこう、という取組みです。

その取り組みは今ではすっかり浸透しており、今年の文系大学生の就職ランキングでは、Teach for Americaが1位になるほどでした。Teach for Americaは学生を2年間学校に派遣する制度なのですが、その経験をした学生のうち66%がその後も教育に何らかの形で携わっており、また残りの34%は、様々な業種において組織のリーダーとして活躍しています。日本では、皆教育が問題だというけれども何かを変えようとしているわけではありません。

しかし、アメリカでは、優秀な若者が2年間を教育につぎ込んで肌で教育の重要性を感じた結果、各界に散らばった人々が起点となってアメリカ全土の教育改革が起きているのです。僕は、そんな取組みを日本でも再現したいと思ってTeach for Japan準備会を立ち上げることにしました。

Teach for Japan準備会の取組み

最後に、Teach for Japan準備会がこれから始めようとしている取組みについてご説明します。まず、今年、Summer Programをパイロット的にやる予定にしています。情熱をもった大学生をリクルーティングして、八王子の中学生を対象に授業をしてもらう予定です。大学生に対しては、プロ意識を持って、創造性豊かな授業を作りあげてもらいたいと考えています。

彼らが得られるお金の報酬はありませんが、その代わりに「社会人基礎力」を提供したいと思っています。外資系コンサルティング会社、教育委員会などの人に講師として参加してもらい、彼らから様々なスキルを教えてもらうことにより、「社会人基礎力」、具体的にはロジカルシンキング、リーダーシップ、プレゼンテーションスキル等が身につくようなプログラムにしたいと思っています。

僕は、次世代の教職員のための教育プログラムを作り上げたいと思っているのです。そして、いつかはこの「社会人基礎力」を教員の場にも定着させたいと思っています。しかし、このプログラムを経験した人たちが教職を選ぶ必要はないと思っています。なぜなら、教職に求められることもビジネスマンに求められることも一緒だと思っているからです。だけれどもこのような取組みが上手くいくようになれば、将来的には教育水準に恵まれない子供たちに対して、質の高い教育を提供していくようなことができるのではと思っています。

今後は、教員に対する研修や、新入社員に対する研修なども行っていきたいと思っています。そして自治体などとも相談して、教員免許がなくても子どもたちに教えられるようなプログラムを開発したいと思っています。また、将来的にはJICAの青年海外協力隊に参加した隊員たちの帰国後の就職先支援もしたいと考えています。



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質疑応答

Q.先ほど「今だ」と思ってNPOを立ち上げたとおっしゃっていましたが、何に自信を持った瞬間にはじめられたのですか?

A.僕は事業に確信を持つ必要はないと思っています。なぜなら事業に関しては色んな人が助けてくれるからです。ですが、「自分はどんなことがあってもやりきれる情熱を持っているんだ」、ということを確信できることは非常に大切だと思っています。そうしなければ、色んな襲いかかってくる不安や困難に立ち向かっていけないからです。

Q.Teach for Americaはなぜそのまま日本に適用できないのでしょうか?

A.アメリカと日本の大きな違いは2つあると思います。アメリカは教員免許がなくても教えることはできます。さらに、アメリカでは教師不足の問題がありました。しかし、日本では教師になるには教員免許が必要だし、教師の倍率もまだ3倍ぐらいある状況です。この違いが非常に大きなハードルになると思っています。さらに、日本では新卒採用文化が根付いており、学生が2年間先生をするという仕組みが受け入れられにくい風土があるという問題もあります。また、他の要因としては寄付文化が根付いていないという問題があります。日本ではNPO=ボランティアという発想が未だにあり、そういう考え方も障害になると思っています。

Q.今の学校制度は、養護学校とそれ以外の学校に分類されています。日本でも徐々に統合する流れにあると思いますが、この動きの中でTeach for Japan準備会はどう絡んでいけるのでしょうか?また、生活保護にあるような人に対してどういう働きかけをするつもりなのか、考えていることがあれば教えて下さい。

A.端的に回答すると、養護学校に対する教育は考えていません。なぜなら、色んな人から色んなことを言われているのですが、全てを同時にすることはできないと思うからです。まずは自分がやりたいと思っている分野から始めていきたいと思っています。逆にあなたへのメッセージをお伝えすると、そういう問題意識を持っているのであれば、是非その問題に取り組んでみてほしいです。自分だけでできることは限られているので、是非お願いしたいです。

Q.Teach for Americaの成功要因の一つに、優秀な大学生を抱え込めたことがあると思います。それができた理由としては、彼らが何らかのプラスを2年間の経験から得ることができたからだと思います。それが何だったのか、教えて下さい。

A.今やTeach for Americaは人気就職ランキング1位のステイタスを持っていますが、始まった当初の20年前は得られるものは今とは違ったのだろうと思います。アメリカ人は愛国心が強い国なので、20年前の人たちは何かを得るために2年間を費やしたのではなく、国のために何かをしたい、という想いがあったのでTeach for Americaに参加したのではないかと思います。

Q.先生に情熱やリーダーシップが必要なのはその通りだと思います。しかし、2008年のTeach for Americaのメンバーは、参加者の8割が参加前にリーダーシップをとった経験があるという状況でした。これに対して、日本人はなかなかリーダーシップをとった経験がある人が少ないと思います。それらの人たちを短期間の研修によって変え、そして保守的な学校に対して戦っていけるとは思わないのですが、いかがでしょうか。

A.まだ実績はないですが、学校への派遣は1人ではなく、2~3人のチーム単位で派遣したいと思っています。さらに彼らにメンターなども付けることでサポートしていきたいと思っています。また、結果を出していくためには、リーダーシップをとった経験がある人たちを選抜することも重要だと思っています。最近の若者は話してみると意外と優秀なので、その辺は問題ないと思っています。

Q. Teach for Japan準備会はアメリカと違って派遣するターゲットを新卒だけでなく、若手社会人も含めたいということですが、その理由はなぜですか?

A.子どもの視点でいうと、実践が分かっている人から教えてもらった方がより学習意欲を刺激するのではと考えているからです。また、子どもには色んなロールモデルに出会ってもらいたいと思っています。若手社会人視点でいうと、今の企業ではリーダーシップやプロジェクトマネジメントなどを学ぶことはできても、実践する機会はなかなか巡ってこない状況です。そういう人がこのプログラムに参加することで、早くからリーダーシップを経験することができると考えています。