CompassPoint (コンパスポイント) ~若手社会人の情熱の魔法瓶~

What we do 活動内容

CP22

CP22回は、ISLの伊藤健さんをお招きしました。

高校中退→GE→Social Venture Partners(SVP)→Institute for Strategic Leadership(ISL)へと独自のキャリアを築かれている伊藤さんに、今回は「何が社会を変える力になるのか?」というテーマに沿って、まずはご自身の生い立ちから始まり現在の取り組みまでお話頂き、あっという間の二時間半でした。

1. 問題意識の源泉としての原体験

官僚の家に生まれ、平穏な生活をしつつ、周りの友達と同じくするように進学校の高校に入学。刺激のない学校生活は眠い以外の何者でもなく、結局不登校がちとなり高校3年生の卒業前に退学。この出来事により親をはじめ世間の目の冷たさに直面することとなる。進学校の学生であった昨日までの自分と、中卒になった今日からの自分。「自分」としてはなんら変わりはないはずなのに、自分に注がれる世間の目は一日を境としてとてつもなく冷たいものに。世間でいう「あるべき像」から外れていることで実感した「疎外感」が、社会への関心を高め、その後の草の根の活動に繋がっていく。北朝鮮を題材としたプログラムに興味を持ち、ピースボートに乗船。その後国内の大学に入学し、NPO活動にスタッフとして関わり、台湾に留学。台湾では共産党活動に参加。大学卒業後、日系メーカーにて勤務するものの、物足りなさを感じることに。ピースボートに乗っていた時にはどんなに寝れない毎日が続いてもあんなに充実していたのに、なぜか?「生きている実感を持って仕事をしていく為にはどのようにすればよいか?」ということを考えていく中で、米国にMBA留学、帰国後はGE Internatinalにて2005年よりSocial Venture Partners東京(以下SVP東京)へパートナーとして参加。現在はISLに社会起業家養成講座等に参画。



伊藤さんがご自身で紆余曲折を経ながら、実際に身を持って体験したことで見出した問題意識が現在のお仕事に繋がっていく過程を話して頂き、皆自分のこれまでの原体験と照らし合わせながら話を聞いていました。続けて、伊藤さんの現在の問題意識である社会企業について、現状を共有・抱える課題を簡潔にお話頂き、前半とは打ってかわり専門的な話をして頂きました。

2. 伊藤さんが考える社会企業とは?

Social Venture Partrnersへの参画、現在のNPO法人ISLにて社会企業家向け養成プログラムを運営する伊藤さんが考える社会的企業とは?

社会的企業(Social Enterprise)の定義とは、各国/各団体によって様々な定義付けがされているが、「収益を生み出し、同時に社会課題の解決に貢献する企業」と考えている。社会的企業(Social Enterprise)を率いる存在の社会起業家(Social Entrepreneur)は、これまで解決されてこなかった重要な課題について、「構造的且つ持続的な社会変革をもたらすチェンジ・エージェント」としての役割が期待されている。

では何故今社会起業が注目されているのだろうか?

これまで社会の仕事は公共部門の仕事という認識がされてきていたが、公共部門によるアプローチだけでは社会が抱える多くの課題に対してアプローチしきれない現実がある。民間セクターの持つ強みであるスピード性・効率性が欠落していることに加え、官僚的組織の中では社会に変革を起こすのに必要なイノベーション的発想が生まれてこない。一方で、民間セクターが社会的課題にアプローチするとなると、営利企業故の一企業の独占・寡占や企業にとっての社会的コストが高くなることで競争力の低下を招くという弊害が生じる。

政府(公益機関)側からのアプローチでも、市場(民間セクター)側からのアプローチでも社会が抱える課題へのアプローチとして不十分。しかし、これを無視し続けることは出来ない。この社会の「構造的なゆがみ」が更に社会問題を生み出していくこととなる。

社会的起業の存在意義とは、この「構造的ゆがみ(Institutional Void)の是正すること」にある。政府部門、市場部門のシステムのゆがみを正し、新しい社会的仕組みや価値観を創出することが、この狭間(第三部門)を担う社会起業家に期待されている。

いかにSystemic Changeを起こしていけるのかが鍵!

  1. 「社会起業家」を支援する

Social Venture Partners東京(以下SVP東京)の取り組み -どのようなイノベーションを促進するか?

SVP東京:

ソーシャルベンチャー事業を、資金や経営ノウハウ、技術面から支援する事業を行っている「日本一のおせっかい集団」。SVP東京の目指すものは二つ。

革新的なソーシャルベンチャーの自立と、SVPの活動に共同参画するパートナーの自己実現。組合員(パートナー)個人が自らの動機や情熱に基づいて、資金のみならず、自分の持てる全てのリソース(時間・専門性)を提供することで、社会的な課題に対し革新的な進歩をもたらそうとする試みる事業(ソーシャルベンチャー)に対して支援を実施。

SVP東京の事業を通して目指していきたいこととは?

①    ベンチャー・フィランソロピー - 社会的価値と流通させる市場を作る

社会的インパクトは測定が難しく、通常の市場経済に乗せるとその価値を見える化出来ないことが多い。この為、有望な社会事業も投資先として認知されずに資金難に陥り、市場撤退せざるをえない状況に陥ることも少なくない。貨幣価値だけでなく、社会的価値の評価を可能とする市場を作りあげたい。貨幣価値だけに頼らないIndexを作ることで、投資家としても参照出来るIndexが複数となることによる市場の成熟化を期待出来るのではないかと思っている。

②    「Social IPO」を築き上げる

通常のベンチャーが株式上場を果たしExitしていくように、ソーシャルベンチャーのExitとは何か?を定義は未だに議論の的。ソーシャルベンチャーの目的が、利益の極大化ではないからこそ、規模の拡大やコストの低減・資金の有効活用等へのインセンティブが働きにくいから。しかし、「Social IPO」という定義を築き上げることで、ソーシャルベンチャーが目指すべき一つの指標が形成され、市場での拡大スピードを加速化させていけるのではと期待している。

③    Translatorとしての役割

今後のソーシャルセクター活発化には、ビジネスパーソンと非営利組織の関係者とをつないでいくことが非常に重要。Traditionalな非営利関係者のマインドセットは、自分達が事業に従事している理由は、金儲けのためでもなく、他者から評価されるためにやっているわけではないというもので、自分達の事業を伝えるという視点で非常に弱い部分がある。

どんなに優良な非営利組織でも、資金確保が出来なければ継続事業をしていくことは不可能。その意味でも、資金の出し手が多く理解する金融市場の言葉で、非営利セクターの価値を翻訳し、発信することに大きな意義がある。まずは理屈で攻めていって、最後いかに情にほだすことが出来るか。

お話を伺っていく中で、伊藤さんの関心の矛先にあるのは、社会的変革を個人ベースで起こすのではなく、社会の市場構造の中にソーシャルセクターのシステムを築き上げることにあるということがよく分かってきました。昨今注目されている社会人が自身のスキルを生かしてボランティアをする「プロボノ」についても、個人の専門知識を機能としてマネジメントに転用しているだけで、これを個人レベルからいかに市場形成出来るまでのシステムに落とし込めるかが鍵なのだと話されていたのが非常に印象的でした。



Q&A

Q1.現在エコノミックリターン(monetary value)によって判断されている市場に投資家が社会的リターンを一つのファクターとして投資価値を判断する日が来ると思いますか?

A1.社会的価値が貨幣価値と同等に評価される市場が形成されれば、後はマーケットにゆだねていってもうまくいくのではないかと思います。



Q2.社会的リターンを数値化していくためには、今の会計基準・通貨基準を改定する必要がと思いますが、この点はどう移植していけると思いますか?ソーシャルセクターだけでなく、ビジネスセクターにおいての改定も必要となってくると思いますが。

A2. 私の関心事としては、どちらかと言うと非上場の前のスタートダッシュの段階へのアプローチを強めていきたいというところにあります。社会的価値を評価可能なIndexを構築することで、ソーシャルな市場を形成していきたいと思っています。

Q3. 社会的課題の大きさ=団体としてのポテンシャリティーはイコールではないと思いますが、どうやって投資先を選定していますか?

A3. 投資基準は設定していなせん。各社会的課題のプライオリティは設定出来るものではないと考えており、イシュー自体が重要でポテンシャルがある団体には支援すべきと考えています。基本的にはパートナーが数ある非営利組織から選んできた投資先候補先から投資先を選ぶ形で進めており、結構主観的に選定していると言えるかもしれません。ただ、SVP東京もと同様に一般の営利企業が投資先を選定する場合も経営者の決断に拠るところであり、公的機関でもないのでこのような形態をとることには問題ないと考えています。

Q4. GE在籍時、昼間の会社員の顔と夜の趣味の仕事(SVP東京)を抱えていたとおっしゃっていましたが、今の伊藤さんは趣味の仕事が本業になっていると思います。よく趣味を仕事にすることは公私の境目がなくなり厳しいと聞きますが、実際はどうでしょうか?

A4. 確かにGEで会社員をしていた際には、趣味の仕事が楽しくて仕方なかったのですが、それが本業となってくると平日も土日も同じ仕事をすることになります。初めはいいのですが、段々好きなことのはずなのに、カラダが動かなくなる時が来ます。(苦笑)

GEにいた時のほうが稼働率が高かく、生活にメリハリが高かったように感じますが、今は逆に週末は散歩したりスポーツをしたいとカラダを動かすようにしていて仕事以外のことをするようになってきました。

伊藤さんの話に皆引き込まれ、活発な質疑応答が交わされると、残り時間もあっという間に。ディスカッションとしては通常より短い時間となってしまったが、伊藤さんのお話を踏まえた上で、以下二つのテーマについてグループに分かれて話し合いました。



1. 日本のソーシャルセクターに欠けているものは?

2. 自分のスキルをどうソーシャルな活動に生かしていけるか?



ディスカッション時間が10分という悪条件の中、参加者の皆さんからは活発な意見が飛び交いました。



1. については、人材の流動化、つまりビジネスセクターからソーシャルセクターへのキャリアチェンジを活性かすることやソーシャルセクターにおいてキャリア形成することへのインセンティブを提供してはという話が出てきました。

これに対して、伊藤さんからも政府が約70億円の予算を社会企業支援に使おうとしているが、より優秀な人材を投入していけるように、ソーシャルセクターの就職を希望する人々に対して、年収UPを目的として助成していけば大きな労働力のシフトが起こるのでは?とお話がありました。



2. については、誰しもが何かしたいという思いは抱えていても、「今の自分に出来ること」と「ソーシャルな活動にいかせること」をつなげていく作業に難しさを感じているようでした。これは日々の毎日の中で模索していくしかないのでしょうね。



コンパスポイントへのメッセージ

このコンパスポイントという集まりはすごいポテンシャルを持った場だと思います。今日お話したTranslatorとしての役割を担っていける皆さんだと思っており、非常に期待してます。非常今後各々がソーシャルセクターへの道を踏み出すのかはタイミング次第ですよ!

僕の場合は、35歳でISLへ転職しましたが、自分としては新たな道へ進むのに遅すぎたのではないかという焦りの方が大きかった。自分のやりたいこととは?自分の仕事で出している付加価値とは?会社勤めすることでお金は貰えるけど焦っている状態でした。

皆さんが困ったときには就職相談になるので、是非頑張っていってください!



伊藤健さん、ありがとうございました!!