イントロダクション
夏でした。それはもう情熱とともに熱い夏・・・。
今回のCP16ではコトラボ合同会社の代表岡部友彦さんを迎えて、講義とワークショップに加えて、野外活動、そしてBBQもやっちゃいました!
プログラム概要
①講義~岡部さんより~
②寿町を歩く!
③ワークショップ
④BBQ
①講義~岡部さんのお話
まずは岡部さんよりご自身の活動について、活動の場である寿町についてお話を伺いました。
岡部さんと寿町との出会い
岡部さんが大学院生だった2004年8月。友人に誘われて何も知らずに寿町を訪れたとき、NPO「さなぎ達」と出会われました。岡部さんが寿町に魅かれた理由は大きく二つ。一つはさまざまな価値観が混在する場だという点。もう一つは、建築的視点からの興味。周辺の町と異なって乱開発されてこなかったことが特殊で、「この町には現代建築から失われたものがある」という直観がはたらいたそうです。また「寿町」という、単体の建築物よりも大きいが都市よりは小さい規模の対象に取り組むことがとても面白いと感じられたとのことでした。実際に寿町はなんとなく懐かしさすら覚える町なんです。
寿町とは?
神奈川県横浜市に所在。JR根岸線石川町駅北口から中華街とは反対方向に少し歩いたところにある、200m×300mのエリア。山谷(東京)・西成(大阪)に並ぶ、日本の3大ドヤ街のひとつ。戦後、米軍が接収したが、日雇い労働者をターゲットにした簡易宿屋業を営んで栄え、ピーク時には1万人の労働者が宿泊していた。その後、日雇い労働者は高齢化し、現在は約6千人の高齢者が暮らす町となっており、その8割が生活保護を受けている。宿泊所は三畳間という狭いものが多いため、子どもはほとんど暮らしていない。最近は不景気の影響から、若者が増えている。また「寿町」と聞くと、横浜の人はマイナスのイメージを抱き、あまり良い顔をしないのが現状。
「モノづくり」ではなく「コトづくり」を
岡部さんは建築出身でありながら、単体の建築物をあまり手がけていらっしゃいません。それは、『「モノづくり」よりも「コトづくり」を大切にしたいと考えているから。』と岡部さんはおっしゃっていました。岡部さんのおっしゃる「コト」には「コミュニティ」、「コミュニケーション」、「価値観」などの意味が込められています。
岡部さんが寿町で取り組むコトづくりの指針は、町にまつわる負のイメージを正のイメージへと転換すること。
寿町で実施されているプロジェクトたち
寿町ではいくつかのプロジェクトが同時に進行しています。ここでプロジェクトを少しご紹介させていただきます。
(1)ホステル事業(Yokohama Hostel Village)
目的は町に新しい風を吹き込むこと。現在簡易宿泊所は122棟、約8,000の部屋が存在しているが、町の人口は6,000人なので、約2,000室は空き部屋となっている。そこで、建物単体でなく街全体をホステルと見立て、ホステル事業を行っている。ツーリストはひとつだけあるフロントオフィスを訪れ、町に散在している部屋を割り当てられるというやり方である。
ホステルは簡易宿泊所のオーナーさんとの恊働で運営されている。部屋や廊下の改装はオーナーか行い(中には屋上に芝生を植えているところも!)、コトラボはソフトのマネジメントを行っている。建物全部を借り上げているわけではなく、5階建ての建物の4階までは町の人が暮らし、最上階のみ旅行者に割り当てられている。古い建物が多く、バリアフリーになっていないので、昇降がラクな下のほうに町の人が住んでいる。あくまで町の人の生活優先なのだ。現在、一ヶ月で延べ1000人ほどの旅行者が泊まりにきている。
ホステルを運営していく中でのひとつのこだわりは、フロントなどの内装をセルフビルドすることだそうです。岡部さん自身や大学の後輩が自力で設計から組み立てまでを行っていった。その過程で、元トビ職の町のおじさんがおもしろがって手伝いにきたりして若者達と打ち解けていくという効果もあった。
↑ホステルの受付
↑宿泊施設内
(2)エクスチェンジプログラム
ホステル業務のうち、夜間の緊急トラブル等に対応するために夜間スタッフをしてくれる人を募集している。人材としては、夢を持ってがんばっているが収入があまりないアーティスト志望や起業家志望の若者。住居としてホステルの部屋を無償で割りあて、また、さなぎ食堂の食券2食分を支給している。かなり人気で現在のところ枠は埋まっているそう。
(3)日替わりサロン
ホステルのフロントスペースを利用して、英会話教室・スープカフェ・スタッフや宿泊客の誕生日会(月一度)・長期宿泊客の送別会などのサロンを開催している。寿町近隣に住む方も集まってくる。
(4)プロモーション
岡部さんは「寿プロモーション」という映像作品を製作し(DVDあり)、様々なところで上映の機会を得ている。これはイギリスの都市開発で撮られている手法で、アート作品としても見れるクオリティの映像を作ることで発表の機会を多く得ることができ、より広く都市の問題や魅力を伝えることができるという。寿プロモーションは横浜のBankArtで長らく上映されていた。
(5)町の住人の生活支援
10年ほど前からNPO法人さなぎ達が中心になって医・衣・食・職・住の5つを柱として行っている事業。このうち「衣」は、全国から衣服の寄付を募って「さなぎの家」という憩いのスペースに並べておき、町の人が好きな衣服を選べるようになっているもの。「食」は「さなぎ食堂」で安い食事を提供している。「職」では、町の人が食堂などで再度働く機会を提供する。たとえば、介護。(入れ墨の入ったご老人を同じく入れ墨のあるおじさんが介護している写真はとてもインパクトがありました)。通常なら介護するのもされるのにも抵抗のある人どうしが、寿町ならサービスを提供したりされたりできる。こうしてヘルパーの資格を取り正社員となる人も数%いるとのこと。
こうした取り組みの重要な目的は、おじさん達どうしの仲間づくりを手伝うことだという。「ホームレス」になる場合、職を失うなどして「ホープレス」化し、家族との円が希薄化し「ファミリーレス」となって、「ホームレス」にいたるということがいわれる。そこで、擬似ファミリーをつくり、仕事や語らいの場を通して仲間の中での自分の役割(寄付品の管理や路上のプランターへの水やりetc)を発見することによって、こうした流れを断ち切ろうということ。
また、町が高齢化していること、一人暮らしで生活環境が乱れがちということから、孤独死も多く見られる。そこで、孤独死をできるだけなくそうということで、弱っている人の「見守りネットワーク」をつくってもいる。
寿町とつき合っていく心構え
岡部さんはよく「GOALは何か?」と訊ねますが、GOAL設定という考え方はしていないそうです。町は50年とか100年というスパンで存在するし、生き物のように自然と変化していくという側面もあります。例えば、今コトラボ以外にもホステル事業を始めたオーナーが出てきています。これはコトラボにとっては大変なことだけど、町としては自然な変化であって町が残っていくためにはとてもいいことですよね?このようなときに自分一人の「どうしたいか」を決めることには意味がないと考えていらっしゃるそうです。
とはいえ、負のイメージがつきまとう町にはしたくないと岡部さんはおっしゃいます。『人の流れのデザインや町のイメージの改善といったソフト面でのアプローチをしていきたい。そのために町の「再価値化」とその価値の「可視化」をしていきたい。』と。
寿町は未だマイナスイメージで捉えられることが多い町ですが、実際に訪れてみるとおもしろい人がたくさんいたり、町に愛着を感じることのできるとても魅力的な町なんです。こうして岡部さんや周りの人たちが関わっていくことで、どんどん変わっていく可能性を感じますね。
②寿町を歩く!
寿町では基本的に写真撮影が禁止されています。実際に歩いてみて、町の人たちが話しかけてくれるあったかい町であることが感じられました。町の人が「少年よ、大志を抱け」とおっしゃってました。皆さん大志は抱いていますか?笑
③ワークショップ
以下の三つのテーマに分かれ、わいわいとワークショップを行いました。
A. 自分ゴト拡大プロジェクト
B. 寿町と旅行者の関係を深める方策
C. 社会企業家のためのプラットフォームづくり
④BBQ
終わった後はBBQをしましたー。
⑤総括
寿町は魅力的な町であるとともに、可能性を感じる町でもあります。その歴史や住む人たちがそうさせたのでしょうか?またコンパスポイントとしては最長時間?お付き合いいただき、ありがとうございます。BBQによって、いつもと違う側面の皆を知る機会になったと思います。さてそんな寿町にCPとしても継続的に関わっていくことが決定しました!プロジェクトも始まっているので、今後の動向にご注目くださいね!
09年08月08日(土) 文責:小俣 健三郎 大宮千絵 栃尾 洲脇佳世
↑企画者のKさん
↑企画者のSさん