第9回コンパスポイントは、教育プロジェクト第一弾ということで、本城慎之介さんと矢花祈さんをお迎えしました!
教育プロジェクト、始動。
まずは、「教育」とか「学習」についての自分の考え・思いを整理するために、
本城さんにワークショップを仕切ってもらいました!
【本城さんのお話/ワークショップ】
とにかく、運営するコンパスポイントスタッフとしても、「ワークショップってこういう風にやると議論が発展するのか!」という目からウロコの気づきの多いワークショップでした!その模様をお送りします!
会場は机を取っ払い、床に座るなり、椅子を持ってくるなり、そこは自由!何が始まるんだ??という感じで参加者もわくわくです。
そうした中で、3人一組のグループを作りました。ワークショップは、このグループごとに行われました!
1. 7分間アイスブレーク
それぞれのグループで、まずはアイスブレークをしてください。やり方も座り方も喋る内容もすべて自由です。7分間あげますので各グループごと、何をするかも含めて話し合ってアイスブレークをしてください。
ニョッキをやるチームや、自己紹介をしっかりやり合うチームや、お喋りで盛り上がるチームなど色々でした。アイスブレークの仕方からそれぞれのグループで考える、そのプロセス自体もアイスブレークに一役買っているのかな、と感じました!!
2. ワークショップ
ワークショップとは?「工場」と「工房」
・ ワークショップを始める前に、そもそもワークショップとは何か?をみんなで考えたいと思います。そのために、「自分の仕事をつくる」という本の著者の西村佳哲さんの「工場」と「工房」という概念を紹介させて下さい。
・ 工場とは、到達レベル(どこまで作るのか)、作るもの(何を作るのか)も、それを作るための方法(どう作るのか)も、一種類に決まっています。
・ 一方で工房では、どうでしょうか。到達レベル(どこまで作るのか)、作るもの(何を作るのか)、それを作るための方法(どう作るのか)も、一律に決まったルールはありません。
・ 従って、同じ椅子を作る場合であっても、「工場」方式で作るのと、「工房」方式で作るのでは、全く違うことになるのです。
・ 私は、ワークショップとは「工房」だと思っています。皆さんはどう思いますか?ちょっと考えてみましょう。このことについて各班3分間話し合ってみてください!。
こういう区別の仕方は今まであまりしたことがなかったなぁーと感心しきりでした。僕のグループからは、コンパスポイントも工場、ってよりは工房だよね、って話も出て、確かに!!と思いました。
「話す」「聴く」「書く」
・ ワークショップでこれからやるのは、以下のことだけです。それは、「話す」こと、「聴く」こと、「書く」こと。
・ 「話し合う」ことはしないでください。自分の考えと、他人の考えを混ぜなくていいです。教育と聞いて早期する内容は各人それぞれと思います。それを取り出して、確認することが必要。そのためのツールとして、「話す」こと、それを「聴く」こと、「書く」ことを使うんです。
・ 「話す」時、「聴く」時、「書く」時、以下のようなことに注意してください。
(1) 「話す」時
うまく話せなくていいです。うまく話そうとしなくていい。でもその代り、正直に思っていることを話してみてください。
言葉に詰まってしまっても構いません。沈黙は悪いことではありません。沈黙しているということで伝えられることもあります。
(2) 「聴く」時
「聴く」時は、真剣にその話を聞いて下さい。
安易に同調して「うんうん、そうだよね」とか言うのはやめましょう。自分の考え方と違うとか、よく分からないなと思ったら、しかめっ面して下さい。
(3) 「書く」時
基本的な注意点は「話す」「聴く」と同じです。
人に見せるものでなく、自分の書きやすいように自由に書いて下さい。字が汚いとか間違ってるとか、そういうのは気にしなくていいです。
【書きおろし】~「書く」~
これから、「書き下ろし」というワークショップを行います。
5分間で、「教育」についてのキーワードを5つ挙げ、それを図解してください。この5分間はあくまで自分で考え、手を動かす時間です。その前提で、他の人のをちら見してもOKです。でも変なこと書いてあっても、笑ったりしちゃダメですよ。
次に、「教育」と似た言葉で、「学習」というのがありますよね。「教育」と「学習」ってどういう関係なんでしょうか?私はこれらは似て非なるものだと思うので、分けて考えています。次は「学習」についてのキーワードを5つ挙げ、それを図解してください(5分)この際、①で「教育」について考えたことを含めて、「教育」と「学習」ってどう違うんだろ、というところについても考えてみてください。
【語りおろし】~「話す」「聴く」~
次に、「語り下ろし」というワークショップを行います。皆さんは三人グループなので、それぞれ、A、B、C三者の役割を担います。
まずAがBとCに対し、「教育」と「学習」について一方的7分間話し倒します。この時の注意点は、
Ø A(Speaker)は時間が余ったら同じ話をしてもいいので、とにかく話し続けて下さい。奇麗に説明する必要は全くなく、あいまいな考えでも全然かまいませんので、とにかく話して下さい。
Ø BとC(Listener)は黙って真剣に聴きます。Aの話に相槌を打ったり、話しやすいように促したりせず、ただ黙って話を聞きましょう。Aの話しぶりやしぐさ、表情などからも色々な事を感じ取ってください。
今度は、BとCがAの話に聞いて感じたことを5分間話し合います。自分の話をするのではなく、あくまで、Aの話を聞いて感じたことについて話して下さい。
この時の注意点は、
Ø A(Speaker)は、後ろを向いて(BとCに対し背を向ける)、BとCの話を、黙って聴く。
Ø BとC(Listener)は、「こんなこと、Aに質問してみたいよね」とか「ここがちょっと分かりにくかったからもう少し詳しく話聞きたいよね」とか、そういう内容を話してもらっても構いません、ただ、Aは答えちゃだめです。黙って話を聞いていましょう。
・ このやりとりを、次はBがスピーカーでAとCがListener、その次は、CがSpeakerでAとBがListenerになって行います。最後にSpeakerになるCはAやBの話を聞いているので、それらに影響されて、先ほど「書き下ろし」で書いた内容と今思っていることがまた変わっていることもあると思いますが、それは問題ありません。書いたことを説明するのが目的でないので、あっちいったりこっちいったりしてもいいので、自分の今思うところを話して下さい。
・ こういう対話の仕方って、普段のコミュニケーションと違いますよね。普段われわれは議論を収束させようさせようという方角を目指してコミュニケーションをとっている。しかし、意外にも、安易に同調しないところに、自分の本音が隠れていたりするもの。それを引き出すのが本パートの大きな目的なんです。
・ 一回りしたら、最後に、3分間で、上述のワークショップの内容についての感想を共有してください。
この「語り下ろし」、目から鱗でした。自分がSpeakerの時もさることながら、Speakerの話をListenerとして聞いて、その話について、もう一人のListenerと話す、って感覚、新しかったです。また、後でSpeakerの話について話さないといけないので、Speakerの話を7分間、本当に真剣に聴こうとするんですよね。「話す」こと「聴く」ことに対してこれだけ集中したこと、今までなかったように思います。
【作文】
・ では、最後に、「私にとって教育とは、」という書き出しで、作文を書いて下さい。時間は15分です。
・ 書き終わったら、それぞれグループ内のメンバーに回します。それぞれ、5分ずつ、グループ内の他のメンバーの書いたものに対して、コメントを入れて下さい。
・ コメントは、「添削」ではないので、字が違うとか字が汚いとか、そういう指摘はしなくていいです笑「書き添える」「書き連ねる」というイメージで、お願いします。
「書き下ろし」「語り下ろし」を通じて自分の中で「思考が推敲された」ような感覚がありました。そのため、ワークショップ前に比べて比較的すんなりと、自分の気持ちを文章にすることができたような気がしました。
また、「語り下ろし」のプロセスで他メンバーの考えを真剣に聴き、それに対して考えたことで、他メンバーの作文に対しても、より深い部分で共有ができたような気がしました。
3. 最後に
・ 今回のテーマは「教育」ということですが、「教育」と聞いて想起するものは各人マチマチだと思います。一方でコンパスポイントとしては、「教育」に関して共通の課題を見つけ、行動を起こしていこうとしているわけで、まずはバラバラの各人の「教育」に対する考えをある程度まとめる(共通化する)必要があるのだと思います。
・ ここで大切なことは、共通化することは、自分の大事なものを捨てて全体の方向性に準じることにもつながるということです。であるならば、個人にとって何が大切で、何なら捨てられるか?ということを考え整理しておくプロセスが不可欠です。
・ 今回のワークショップでは、こうした考えに基づき、徹底的に個人の「教育」に関する考えを語りおろしつくすことに焦点を置きました。
・ 皆さんは20年間もの間教育の受け手として「教育」に関わってきたわけで、その積み重ねは非常に深いです。考えを掘り下げることをせずに「教育」を語れば、表面的な議論に終始してしまうと思います。でも、一度語りおろすことによって表面下に積み重なっているものを混ぜ返しておけば、より意味のある議論ができるのではと思います。
・ 今日のプロセスを踏まえ、今後の「共通化」「アウトプット」に生かしていってくれたらと思います。
本城さん、どうもありがとうございました!
続いて、現役の学校の先生の矢花祈さんからもお話を頂きました!
【矢花さんのお話】
自己紹介
・ 僕は今は5年生の担任をしています。21人のとても元気のいいクラスです。でも、2年前に持ったクラスは色々な問題のある、発言のないクラスでした。そのときに、教室とは、子どもと教師の対話の場だと改めて実感しました。
・ 実は、自分に何が話せるのか分からなかったので、正直ここに来るのはちょっと憂鬱だなー、と思ったりもしてます笑なので、今日は僕が話すというよりは、むしろ皆さんとい一緒に考えたいなと思います。
・ 僕自身、先ほどの本城さんのワークショップに参加してみても改めて感じたんですが、自分が教育の現場にドップリつかって、逆に見失った部分があると思っているんです。今日ここに来たのも、見失ったもの、それが何なのかを考え直したいと思ったことが大きな理由です。
教育に携わったきっかけ~
・ 一番初めのきっかけは、小学校2年生のときに、「保父さんになりたい」という作文を書いのですが、それを当時の担任の先生が文集に載せてくれた、ってことですかね。それがとても良い思い出となって、将来は子どもに携わる仕事がしたいという漠然とした思いを持ったんです。それがだんだんと、「教師になりたい」という夢に形作られていきました。
・ その後も、悩むことは多かったけど、教師になりたいという夢は変わりませんでした。でも、大学受験で教育学部を受けようとして浪人したこともあり、その時はインテリアデザイナーをやっていた父の仕事を継ぐことも考えました。
・ それでもめげなかったのは、「子どもと一緒にいたい」という変わらぬ想いがあったこと、そして「子どもと一緒にいることが自分にとって最良の学びになる」という確信があったからですね。それが、僕の行動の原点にあるモチベーションだと思います。
・ ただ、正直なところ、ワークショップでも感じたけど、自分のそうした想いは徐々に薄れてしまっているのかな、と思います。教師として働いていると、世間体を考える必要があって。学級経営や学力向上などとういう目標によって、いつの間にか「子どもから学ぶ」という姿勢から「教えなきゃいけない」という風に、姿勢が変わっていくように思います。
・ 僕が教員になろうとしていた頃は、教員採用試験が難関の時代でした。今でこそ倍率は1.5-3倍くらいだけど、当時は30-50倍もあって。教育雑誌を見ると、「あと7年経てば受かりやすくなる」っていう記述があったくらいだったんです(笑)そういう中で、教員採用試験の受験には、失敗してしまいました。
・ ちょうどその時、ボランティアで働く若者を探している学校がブラジルにあることを聞いて、行ってみたいな、と思いました。応募してみたら、本当にその学校に行けることになって。そこは、ジャングルの中にある私立の学校で、1年生から8年生までの8学年が勉強していました。そこで僕は、日本語の先生として教えながら、住み込みでの管理人のような仕事も兼任していました。その学校は、経営者が日本人である他は教師も全員ブラジル人という環境。ここで働くなかで、「日本人という枠を出ないと駄目」という痛烈な経験を積んだ。
・ 日本に帰ってきたんだけど、なかなか仕事が見つからなくて、それでも半年くらい経って、適用指導教室(不登校の児童向けの学校)で働くことになりました。10くらいの学校で働いて、やっと本採用になることができた。いまは、学校を移って2つ目の学校で働いています。
学校での仕事とは
・ 実は教師の仕事って、授業が終わってからの仕事が多いんです。15:30に授業が終わって、それから18:00くらいまで学校の業務をして、その後にやっと自分の授業の準備ができる。なので家に帰るのは21-22時くらいで、就寝は24時くらいってのが平均ですかね。もっと早く帰りたいですが、なかなか難しいです。
・ そのように教師に負担がかかっているのは、やっぱり教師が少ないから。それに、今後は管理職不足の問題が顕在化してくるはず...学校組織の構造的な問題があるのかなぁと思います。
日本の教育の問題点
続いて、実際に教育の現場で働いていらっしゃる矢花さんに、日本の教育の問題点について思う所を語っていただきました!
① 学校選択性がもたらす問題
学校選択性が始まったことで、学校の淘汰が進んでいます。いま、僕の学校は全校生徒で80人しかおらず、なんと、今年の新入生は4人だけでした。そして、そんな学校には誰も入りたがらないという負の連鎖が起こる。きっと、このまま行けば必ず廃校になる。こうした廃校による学校数の削減のため、子どもたちの確保に必死にならなければいけない状況は、教師に対する負荷を増やしているかなぁと思います。
② 我慢が出来ない子ども
「褒めて育てる」というだけではやっぱり駄目なのかな、と思います。最近は我慢のできない子どもが本当に増えていると思いますね。
③ 危ういネット社会、性モラル
・ ネットによる情報の氾濫で、性モラルが崩壊してきています。家庭訪問に行った際に、その生徒が性犯罪に巻き込まれていたことが発覚したこともありました。そのことは今でも本当に胸が痛くなります。
④ 教師の余裕のなさ
・ 特別支援学校の廃止により、様々な生徒に対応する必要がでてきて、教師の負荷は急増しました。その結果として、生徒一人一人に対してジックリと考えさせるような、そういう教育を施すことのできる機会がなくなってきてしまっているのが事実です。
⑤ 大量退職の問題
・ いま一斉に教師の退職が起きており、結果として若手の大量採用が起きている状況です。本当に教師の質が保てるのかという問題もあるし、中堅が少ないので指導が行き届くのかも非常に不安ではありますね...
矢花さん、どうもありがとうございました。
やはり、現場で実際に教育に携わっていらっしゃる方のお話を伺うのはとても臨場感があり、色々と考えさせられました。
当日は、本城さんが校長経験者であり、参加者には省庁で教育関係の仕事をしている人もいて、お話の途中で色々と意見交換がなされる場面も見られました!
【最後に】
今回のコンパスポイントは、教育プロジェクトの第一回、ということで、本城さんのワークショップ、矢花さんのお話を通じて、参加者一人一人が教育に対して持っている問題意識を掘り下げ、共有するプロセスだったかと思います。
今後、コンパスポイント全体としては、ではどのような問題意識を持ってどのようなアプローチで教育に携わっていくべきか、考えていきたいですね。そして、何らかの行動に結び付けられればな、と思います。
教育プロジェクトの第二弾にも、引き続きご期待下さい!!